天皇の世紀〈1〉黒船



天皇の世紀〈1〉黒船
天皇の世紀〈1〉黒船

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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超絶的な幕末通史

 「天皇の世紀」というタイトルですが、全十巻というボリュームにも関わらず、黒船来航前夜から北越戦争中途までのわずか15年ほどを描いた作品です。

 普通、幕末?維新史というのはあまりに多くの登場人物が、あまりに複雑に絡み合って、あまりに激しく動くことから、一つの視点を固定して(特定の人物、現象、地域など)、その時代の一つの様相を掴み取ろうとすることが多いかと思います。

 しかし、大佛次郎は真正面から幕末を描ききろうとします。その描き方は詳細を極め、超絶技巧で描かれた細密画を思わせます。筆の代わりに筆者が駆使するのは、正に「膨大」としか言いようのない史料ですが、それは正史から日記、手紙など、およそ考えうる限りの文献に及び、しかもその考証も忽せにしません。そして、そういう細かな部分がとても面白いのです。
 細部を積み重ね、作家的想像力は最小限にとどめることで、かえって時代の空気を重層的・多面的に描き出すことに成功しています。

 この第1巻でも、メインはもちろん黒船の来航ですが、宮中での皇子(後の明治天皇)生誕に係る種々の行事、有職故実から、南部藩の大量逃散、清国での主として阿片を巡る西洋列強の動きなど、通常の幕末通史ではまず触れられることのない事項をかなり詳しく書いています。
 また、このあと吹き荒れることになる攘夷の基盤となる水戸学と徳川斉昭の影響の大きさが説得力を持って記されています。

 とにかく、これほどの「幕末クロニクル」とでも言うべきものを作り上げた(実際は未完なのですが)大佛次郎という作家の巨大さに圧倒されます。
 ともすれば坂本竜馬や新撰組、西郷隆盛や徳川慶喜などの巨人的存在に目を奪われやすいのですが、名も知らなかった無数の人々が歴史を作り、織り成していくのだ、という自明の、しかし地味な真実が無理なく悟ることができる書であり、そしてとても抑制の効いた読みやすい文章ですので、多くの方に手に取って欲しい良書です。ただ、なにせ全十巻(最終巻は殆どが索引・資料ですが)ですので、時間の無い方は興味のある部分だけでもいいのではないかと思います。
日本人の明治維新観を決定した大著

普及版刊行を機会に通して読み出した。
膨大な史料を駆使して、しかも多くは史料自身に語らせて迫力に満ち満ちており、しばらく他は手につきそうにない。
著者の歴史についての見方や人物評は、何の抵抗もなく胸に落ちる。「鞍馬天狗」以来の著者の史観が、良くも悪くも日本人の明治維新観を決定づけてきたのだと、あらためて痛感する。その影響力は、今日に至るも司馬遼太郎よりずっと大きいだろう。
多くの日本人が一度本書に戻り、それぞれの明治維新観を創り上げる為の原点となすべく、精読をお奨めする。



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